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妊婦は魚の食べ方や量に注意
妊娠すると味覚が変わると言います。たとえば、酸っぱいものが食べたくなったり、塩味が強い味付けの料理が好きになったり、脂っこいものを食べられなくなったり、もちろんこれらとは違う変化があったり、妊婦によって味覚の変化は様々です。
ところで、妊娠中は生魚など魚料理を控えた方が良いという話を聞いたことはないでしょうか。
「たしかに妊婦は食べ物の制限が多いけど、魚もダメなの!?回転寿司行けないじゃん!」
もちろん、魚すべてがダメなわけではありません。良質なたんぱく質、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)、カルシウムなどが多く含まれている魚介類は、栄養を摂る目的ではすばらしい食材です。
ただし、妊娠すると魚料理を無制限に食べて良いわけではなく、魚の種類や食べ方に注意が必要なんです。
なぜ妊婦は、魚料理に注意しなければいけないのでしょうか。また、お寿司やお刺身など生魚で食べても良いネタは何でしょうか。
今回は、妊婦がお寿司屋お刺身などの魚料理に気をつけないければいけない理由、食べても良い魚料理や注意すべき魚についてお話したいと思います。
妊婦が寿司・生魚に注意する理由1.水銀
1.妊婦と水銀
水銀は人間の身体に有毒な重金属で、一定量摂取することで脳の中枢神経系に影響を与えます。水俣病の原因としても、よく知られていますね。そして、一部の魚介類には、わずかですが水銀が含まれています。
ただ、通常の食生活に魚を取り入れる程度(日本人の1食の魚の平均量は約80gで刺身1人前、切身1切れ)であれば、水銀は徐々に体外に排出され、2か月後にはおよそ半分まで減るため問題ありません。
しかし、胎児は取り込んだ水銀(とくにメチル水銀)を排出できません。そして、胎児が水銀の影響を受けると、脳障害などにつながる可能性があります。そのため、妊婦は胎児のことを考え、生魚の摂取に気を付ける必要があります。
2.水銀を多く含む魚と摂取量の目安
水銀は、小さい魚を大きな魚が食べる食物連鎖により、大きな魚や寿命の長い魚ほど蓄積されているため、とくに妊婦は魚の種類に気をつけなければいけません。
薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会の乳肉水産食品部会では、以下のように水銀を多く含む魚と摂取量の目安を発表しています。
1回約80gとして妊婦は2ヶ月に1回まで(1週間当たり10g程度)
・バンドウイルカ
1回約80gとして妊婦は2週間に1回まで(1週間当たり40g程度)
・コビレゴンドウ
1回約80gとして妊婦は週に1回まで(1週間当たり80g程度)
・キンメダイ
・メカジキ
・クロマグロ
・メバチマグロ
・ツチクジラ
・マッコウクジラ
1回約80gとして妊婦は週に2回まで (1週間当たり160g程度)
・キダイ
・マカジキ
・ユメカサゴ
・ミナミマグロ
・ヨシキリザメ
・イシイルカ
マグロの中でもキハダ、ビンナガ、メジマグロ、ツナ缶は通常摂取で問題ありません。魚の水銀に対して過剰に反応する人もいますが、あくまでも上記目安通りであれば、影響がないことを押さえておきましょう。
近年、魚介類を通じた水銀摂取が胎児に影響を与える可能性を懸念する報告がなされ ています。この胎児への影響は、例えば音を聞いた場合の反応が 1/1,000 秒以下のレベ ルで遅れるようになるようなもので、あるとしても将来の社会生活に支障があるような 重篤なものではありません。
妊婦が寿司・生魚に注意する理由2.食中毒
1.妊婦と食中毒
お寿司やお刺身などの生魚を摂取するうえで気を付けたいのが食中毒です。生魚に含まれている可能性がある食中毒の菌や微生物は、ノロウィルス、リステリア、アニサキス(寄生虫)などがあります。
ノロウィルス食中毒は、発熱、嘔吐、下痢などを引き起こします。胎児への直接の影響はありませんが、母体が感染症にかかり各症状を発生することでストレスがかかりますし、栄養阻害の原因にもなります。
リステリア食中毒は、リステリア・モノサイトゲネスによる食中毒です。妊婦が感染した場合、発熱、悪寒、背部痛などを引き起こします。胎児への影響もあり、流産や早産および死産の原因になる場合があります。
とくに、妊婦や胎児、新生児などは重症化する可能性があり、重症化すると髄膜炎や敗血症、意識障害などを起こすこともあります。
感染を起こしやすい人は、妊婦(胎児)、新生児、高齢者及び慢性呼吸器疾患や慢性心疾患、慢性腎疾患、糖尿病、高血圧などの基礎疾患を持つ人で、健康な成人と比較して100~1000倍感受性が高いとの算定があります。
アニサキス食中毒は、腹部の痛み、悪心、嘔吐、アナフィラキシーショックなどを引き起こします。アナフィラキシーショックは、妊婦に影響があるだけでなく、胎児の低酸素血症や死産につながるリスクがあります。
アニサキスアレルギーによる蕁麻疹・アナフィラキシー - 国立感染症研究所
2.食中毒の恐れがある魚
とくにノロウィルス、リステリア、アニサキスの心配がある魚介類は以下の通りです。
生カキ(ノロウィルス)
スモークサーモン(リステリア)
サケ(アニサキス)
サバ(アニサキス)
サンマ(アニサキス)
タラ(アニサキス)
イカ(アニサキス)
家庭でできる食品安全 -食べ物の購入から 後片付けまで - 農林水産省
これら食中毒の原因の多くは、しっかりと熱処理をすることで死滅します。つまり、妊娠中の生食は避けた方が良いということですね。一方、保存する場合は注意が必要で、低温保存で菌や微生物が増殖したり、冷凍保存でも自然解凍時に増殖する恐れがあります。
妊婦が寿司・生魚に注意する理由3.ビタミンAの過剰摂取
1.妊婦とビタミンA
ビタミンAには免疫力を高める役割があり、妊娠生活には欠かせない栄養素です。魚介類には様々な栄養素が含まれており、もちろんビタミンAも豊富に含まれています。ただし、ビタミンAを多く含む魚は注意が必要です。
ビタミンAの主成分である「レチノール」は、過剰摂取すると「ビタミンA過剰症」を起こす可能性があります(連日7500μg以上摂取すると慢性症状が出ると言われている)。
ビタミンA過剰症には、急性と慢性の中毒症状があり、急性過剰症は腹痛、悪心、嘔吐、めまい、全身の皮膚落屑などがみられ、慢性過剰症は関節や骨の痛み、皮膚乾燥、脱毛、食欲不振、体重減少、肝脾腫、頭痛などがみられます。
また、ビタミンA過剰症は妊婦だけでなく、胎児にも耳の形態異常などの奇形がみられます。
すべての魚介類にレチノールが多いわけではなく、養殖魚や巨大魚、魚卵などの一部に多く含まれています。寿司や生魚を食べる際は、特にレチノールの多い魚介類を避けた方が良いでしょう。
2.ビタミンAが多い魚
以下はビタミンAを多く含む魚の種類です。生魚だけではなく、寿司ネタになる蒸し魚や魚卵も含まれます(可食部100gあたりの含有量 µg/100g)。
蒸しアナゴ 890µg
養殖あゆ(焼き) 480µg
あんこうきも(生) 8300µg
たたみいわし 410µg
うなぎ(かば焼き・白焼き) 1500µg
ぎんだら(生) 1500µg
いくら 330µg
すじこ 670µg
やつめうなぎ(生) 8200µg
ほたるいか(生) 1500µg
妊婦が寿司・生魚に注意する理由4.塩分の過剰摂取
1.妊婦と塩分
寿司は酢飯と魚などの具材で作る料理ですが、そのいずれにも塩分が含まれています。また、お寿司やお刺身には、醤油や塩などをつけて食べることがほとんどでしょう。
これらの理由から、お寿司やお刺身を食べすぎると塩分の過剰摂取になり、妊婦の様々な合併症の原因になります。たとえば、妊娠高血圧症候群はさまざまな要因で発症しますが、その原因の1つは塩分の取りすぎです。
妊婦が1日に摂取する適当な塩分量は、食塩換算量で7-8gとされていますが、酢飯1人前(お寿司10貫相当)だけで2g相当の塩分があります。さらに、具材の塩分と醤油の塩分も追加されるため、お寿司やお刺身は控えめに食べることが望ましいでしょう。
2.塩分が多い加工魚や魚卵の種類
以下は塩分が多い加工魚や魚卵の種類です(可食部100gあたりの含有量 g/100g)。
しらす干し(半乾燥品)|6.6g
しめさば|1.6g
たらこ|4.6g
明太子|5.6g
塩辛|6.9g
現在、一部の回転寿司チェーン店などでは減塩醤油やスプレータイプの醤油が用意してあり、減塩の工夫がされています。シャリ(酢飯)の量が少な目の寿司やシャリ無しの寿司などもあるので、うまく活用しましょう。
妊婦が寿司・生魚に注意する理由5.糖質の過剰摂取
1.妊婦と糖質
糖質とは、炭水化物から食物繊維を除いた栄養素を言います。糖質は、わたしたちの活動エネルギーとして使われます。妊婦であれば、妊娠中の運動の効果を高め、代謝効率の良い身体を作る助けになります。
ただし、糖質を過剰摂取をすることで、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病になる可能性があがってしまうので注意が必要です
2.糖質の多い魚
魚自体の糖質はそれほど高くありません。刺身であれば、ほとんどの種類の魚が100gあたり0.1-0.3gほどです。ところが、お寿司になると話は変わります。
お寿司を構成する材料の大半は酢飯です。酢飯には、ごはん、塩、砂糖、酢が含まれており、カロリーだけでなく糖質も白米以上に含まれています。1貫あたり酢飯20gと仮定すると、糖質は8gほどになります(白米は20gで糖質が7.2gほど)。
お寿司はサイズも味も食べやすいので、ついつい食べ過ぎてしまいますが、これだと糖質をとりすぎてしまいますね。
食べても良い魚は積極的に食べるべき
もちろん、妊婦がお寿司やお刺身を食べてはいけないわけではありません。妊娠中に生魚や魚料理で注意する点は以下の通りです。
・水銀中毒を避けるため、食べる量と種類に気をつける
・食中毒を避けるため、魚はなるべく火を通す
・ビタミンA過剰摂取を避けるため、一部の魚や魚卵に気をつける
・塩分過剰摂取を避けるため、加工魚やお寿司の量に気をつける
・糖質の過剰摂取を避けるため、お寿司、お刺身の醤油に気をつける
たとえば寿司ネタの場合、キハダなどの若いマグロやツナ缶は問題ありません。本マグロでも1週間に80gまでは問題ないので、1貫15gだとして6貫ぐらいは大丈夫です。白身の魚は特に気を付けるところはなく、巻物や加熱済みのもの(ボイルえびや玉子など)も良いですね。
ただし先述した通り、どれだけ栄養豊富で健康に良い食材や料理でも、食べ過ぎは塩分過多や糖質過多、ビタミンA過剰症の要因になるので注意が必要です。
魚介類は冒頭で話した通り、EPA、DHA、カルシウムなど栄養の宝庫です。妊娠中は余計なカロリーを摂らないためにも、魚で効率的な栄養源を摂取してください。