親の運動神経は子供に遺伝する?運動能力や身体能力との違いは

運動会で走る子ども

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運動神経は親の遺伝って言うし…

厚生労働省の「平成22年度乳幼児身体発育調査」によると、子供がひとり歩きを始める時期の目安は、生後13か月過ぎ、生後15-16か月で9割を超えます

もちろん、時期には個人差があるため、多少ひとり歩きが早くても、親バカ以外は「うちの子運動神経良いかも!」とは思わないでしょう(わたしも含めて親バカの方が多いのですが……)。

ひとり歩き時期の目安
生後08-09か月未満:1.0%
生後09-10か月未満:4.9%
生後10-11か月未満:11.2%
生後11-12か月未満:35.8%
生後12-13か月未満:49.3%
生後13-14か月未満:71.4%
生後14-15か月未満:81.1%
生後15-16か月未満:92.6%
生後16-17か月未満:100.0%

さて、そんな子供の運動神経が、目に見える形で差があると感じ始めるのは、5-6歳前後からではないでしょうか。

かけっこをしても足が遅い、ボールに対しての反応が悪い、自転車に乗れない……などの様子を見て、「まぁ、運動神経って親の遺伝だしね……。」と諦めてしまう親もいるようです。

たしかに、一流スポーツ選手の親や家族は、元々スポーツ選手ということが多いですね。そのため、運動神経は遺伝という話も納得できますが、この話は本当なのでしょうか。

今回は、親の運動神経は子供に遺伝するか、運動神経とは何なのかについてお話したいと思います。

運動神経と身体能力の違いとは

運動神経の良し悪しの話をする前に、運動神経の定義が必要です。

たとえば、わたしたちはスポーツが上手にできることを「運動神経が良い」「運動能力が優れている」「身体能力が高い」、最近では「フィジカルが強い」などの表現をしますが、これらの言葉は意味が違います。

1.身体能力が高いとは

まず、運動神経と身体能力は全くの別物です。身体能力とは、体格・瞬発力・持久力など運動における身体的資質の総称で、競技上の技術とは関係がない機能のことです。文部科学省が定義する身体能力の要素は以下のとおりです。

身体能力の要素
1.筋力
2.筋持久力
3.瞬発力
4.心肺持久力
5.敏捷性
6.平衡性
7.柔軟性

つまり、身長や体重などに対して適正な骨格や筋力があり、その骨格や筋力を活かした走力・跳躍力・持久力などの基礎能力値が高い人を「身体能力が高い」と表現します。そのため、身長が高く必要な筋力があれば、その分身体能力値は上がると考えられます。

2.運動能力が優れているとは

運動能力とは、身体的資質である身体能力の要素を活かして、走る・飛ぶ・投げるなどのパフォーマンスを上げるための能力のことです。

そのため、身体能力が高くても、早く走れなかったり、遠くまで投げることができなければ、運動能力が優れているとは言えません。運動能力を上げるためには、身体の動きをコントロールし、反復した動きを覚えるなどの調整力が必要になります。

3.運動神経が良いとは

運動神経とは、身体の部位や筋肉の動きをコントロールする(信号を伝える)神経の総称のことです。

一般的に運動神経が良い子は、「足が速くて、ジャンプ力があって、サッカーが得意」など運動やスポーツ全般が得意と思われがちですが、たとえ足が遅かったり、ジャンプ力がなくても、サッカーボールの扱い方がうまかったり、走り方がきれいだったり、水泳で息継ぎがスムーズにできれば運動神経が良いと言えます。

つまり、運動神経が良いとは、持っている身体能力を活かす脳の処理判断とその命令よる身体のコントロールができている状態であり、運動神経が良ければ、優れた運動能力をさらに活かすことができるようになります。

4.フィジカルが強いとは

フィジカルとは、身体や肉体という意味のため、「フィジカルが強い」というと肉体的な強さのみを表すと考える人もいるでしょう。

スポーツトレーナー、コンディショニングコーチを務める山田大介氏は、スポーツメディア「MUSTER」で以下のように述べています。

スポーツにおいてのフィジカルは、今回取り上げたフィジカルコンタクトだけを指すのではなく、各競技において必要な体格(身長、体重、筋肉量など)及び体力要素(筋力、持久力、敏しょう性、平衡性など)だと考えるべきです。

したがって各競技スキルで必要なフィジカルが変わってくるということを理解し、選手はメンタルを含め各種体力トレーニングを実施すること、また競技スキルを強化することがフィジカルの強化につながるということ忘れてはいけません。

引用|【日本人の弱点?】「フィジカル」とはなんなのか | MUSTER

つまり、フィジカルが強いとは、そのスポーツに必要な身体能力を機能させる運動能力を高め、運動神経によってコントロールできた状態だということなのでしょう。

運動神経の良し悪しは親の遺伝?

メリーランド大学運動生理学部教授のStephen Roth氏によると、運動神経や運動に関する能力には遺伝するものと遺伝しないものがあり、それは人によって異なるそうです。

運動特性の遺伝率についての大まかな数値をいくつか挙げておきましょう。遺伝率が高ければ高いほど、カウチポテト族とスター選手の違いは、トレーニングではなく遺伝のせい、ということになります。

有酸素運動:遺伝率は約40~50%
筋力および筋肉量:遺伝率は約50~60%
「遅筋線維」と「速筋繊維」の混在率(簡単に言えば、持久力と瞬発力のどちらが優れているかを決定する要素です):遺伝率は約45%
身長:遺伝率は約80%
スポーツでの全般的な競争力:遺伝率は約66%

引用|遺伝子は運動能力にどれだけ影響するの? | ライフハッカー[日本版]

これらの数値では、遺伝の影響は少なくないようにも思えますが、よく見るとこれら遺伝の多くは身体能力です。

子供のころ、ましてや幼児の間は、有酸素運動や筋力などの身体能力には大きな差はありません。

それよりも、どれだけ自由自在に身体を動かすことができるか、身体の各部位の運動神経が正しく接続されているかの方が重要です。

子供を一流スポーツ選手にしたいわけじゃない

以前お話した「ゴールデンエイジ理論」においては、9-12歳のゴールデンエイジを活かすために、3-8歳のプレゴールデンエイジにボール投げ、かけっこ、ボール蹴りなど、さまざまな遊びを通して身体の使い方を学ばせ、運動に対する意欲を高めることが重要です。

「わたしがスポーツ苦手だから、どうせこの子も……。」と親が運動に消極的になると、せっかく人生に1度だけ訪れるゴールデンエイジを活かすことができません。

もちろん、将来子供にスポーツ競技で生計を立てて欲しいのであれば、「人並み以上の身体能力」「人並み以上の運動能力」「人並み以上の運動神経」を身につけるための「人並み以上の規律ある生活」「人並み以上の鍛錬」、それを継続するための「人並み以上の精神力」が必要ですが、そこまでを望む親は多くはないでしょう。

さて、まとめると、親からの遺伝の多くは単純な身体能力であり、運動神経とはあまり関係がありません。身体能力を活かした運動能力を高めるのは、小学校高学年くらいからでしょうか。

身体のコントロール力(運動神経)を効果的に高めるのは3-8歳のプレゴールデンエイジであり、運動体験と運動意欲を養うことでその後の鍛錬(練習)の継続に差が生まれます。

つまり、「わたしがスポーツ苦手だから、どうせこの子も……。」と諦めてしまうと、20年後、30年後に子供が同じことを思うかもしれないということです。


参考|中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会 健やかな体を育む教育の在り方に関する専門部会(第8回)議事録・配付資料 [資料2]
参考|身体能力ってどんな能力?「運動能力とは別もの」専門家に聞いてみた – withnews(ウィズニュース)