育児・教育

幼児期健忘がない人はいる?子供の頃の記憶はいつから残るか

投稿日:2019年4月25日 更新日:

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うっすら思い出す子供のころの記憶

人間誰でもそうだと思いますが、子供のころに遡るほど、記憶や思い出は薄れていきます。わたしが覚えているもっとも古い記憶は、幼稚園時代のうっすらとした思い出です。

年長のときの発表会でちょっとやらかして、見に来ていたお父さんやお母さんたちみんなに大爆笑されて恥ずかしかったこと。

年中のときにお友達が北海道に引っ越すと聞いて、なぜか猛吹雪を想像したこと。

年少のときに絵の具で手型・足型を取ったこと。

年長、年中、年少と見事に背景が薄っぺらくなっていきます。年少に至っては、記憶というよりもその場面を切り取った一面しか思い浮かびません。ただ、大人になると昔の記憶ほど薄れていくことは当たり前のことですね。

では、子供はどうかというと、3年生になった息子とはちょこちょこ幼稚園時代の話をしますが、たった3-4年前のことでも「覚えてない。」と言います。なんだか、小学生になると同時に、昔の記憶がすっぽりと抜けてしまったような印象を受けます。

このように、ある時期から幼児期以前の記憶がすっぽりなくなってしまうことを「幼児期健忘(ようじきけんぼう)」と言います。

幼児期健忘とはどのような仕組みで起こる現象なんでしょうか。また、幼児期健忘がなく、記憶がしっかりと残っている人はいるのでしょうか。

今回は、幼児期健忘の仕組みと子供の頃の記憶についてお話したいと思います。

幼児期健忘(乳児健忘症)とは

幼児期健忘とは、一般的に3歳以前の記憶がある時期から突然なくなってしまう現象のことで、1905年にオーストリアの精神医学者ジークムント・フロイトによって名付けられました。

幼児期健忘は、フロイト移行100年以上も研究され続けていますが、いまだにその謎のすべては解明されていません。

CiNii 論文 -  幼児期健忘と最初期記憶に関する研究の現在

幼児期健忘が起こる理由

近年の研究では、幼児期健忘が起こる理由は、「記銘の失敗」「検索の失敗」という2つが挙げられます。

1つは,乳幼児期の学習は未熟で,記憶をうまく固着できない(記銘の失敗)とする考えです。もう1つは,記憶の貯蔵に必要とされた神経ネットワークが,後に発達したものに飲み込まれて,当時の記憶を思い出せない(検索の失敗)とする考えです。それぞれに合致する結果があり,完全に否定できませんが,これまでのところ,検索の失敗説のほうが支持されているようです。

子どものときのことを覚えていないのはなぜ? | 日本心理学会

つまり、赤ちゃんは記憶をしていないわけではなく、記憶を長期間覚えておくことができない、または覚えた記憶を引き出すことができないということです。

幼児期健忘が起こる理由
記銘の失敗|記憶をうまく定着させられない。
検索の失敗|記憶がうまく思い出せない。

子供の記憶はどのように発達するのか

では、子供の記憶はどのように発達しているのでしょうか。

子供の記憶は何歳から始まる?

日本心理学会によると、赤ちゃんは生後3か月で1週間、生後4か月で2週間ほど記憶が保持されるそうです。しかも赤ちゃんは、生まれる前の胎児のころから記憶ができるそう。

私たち(Kawai et al., 2004)は,すでに胎児期に学習・記憶ができることを示しました。チンパンジーの胎児に音を聞かせた後,母体を通じて不快な振動を与えるという「驚愕反射の条件づけ」を行ったところ,生後1カ月と2カ月時のテストで,胎児のときに与えられた音にだけ驚愕反応を示しました。

子どものときのことを覚えていないのはなぜ? | 日本心理学会

記憶の発達の4つの段階とは?

K.Nelsonは、2005年に発表した論文において、人の記憶システムの発達を4つの段階があるとしました。

それは、生後半年ごろまで優勢な「知覚的な記憶」、9か月ごろに始まる「模倣をするための記憶」、3-3歳半ごろまで続く自己を認識した「自伝的記憶※」、そして、言葉を覚えることで「言語化できるようになる記憶」です。

注釈特定の時間や場所と結びついた出来事の記憶を「エピソード記憶」と言い、そのうち自己に関連する情報の記憶を「自伝的記憶」と言います。

第1のレベルである"出来事の記憶"は、潜在記憶的なもので、ほとんどの動物も可能なプリミティブな記憶である。これは日々の繰り返し事象の知覚的・手続き的な記憶であり、生後半年までの幼児に優勢である。しかし、同時に次のレベルへの発達の"種"を含んでもおり、幼児はこの出来事の記憶も使い続けながら、新たな機能である"模倣"が可能になってくる。これが第2のレベルである。"模倣"はチンパンジーにも一部は可能であるが、表象形成を伴う模倣は基本的には人特有のものであるという。つまり、いわゆる9ヶ月革命を経て可能になる記憶である。このレベルにおいて、1回の事象でも記憶が可能となり、頻度の成約を超える。言語獲得移行は記憶は新たな段階に入る。第3のレベルである"ナラティブ"は、表象言語の使用による"語り"のレベルで、自己の認識及び自伝的記憶がここで可能になる。第4のレベルは"外在化"で、典型的には文字という外部媒体を使用した記憶であり、ここにおいて、人の記憶能力は量・質ともに大きく高まるのである。

A Study of Early Development of Human Memory. Keiko HASHIMOTO

K.Nelson:"Evolution and Development of Human Memory Systems",Origins of the Social Mind, B.J.Ellis & D.F Bjorklund(Eds),Guilfoed Press, pp.354-382(Chap.14), 2005.

幼児期健忘は言葉の発達によるもの

赤ちゃんはそれぞれの記憶の発達段階において、必要なものを身につけるために短期的な記憶をしています。

ところが、ある時期に幼児期健忘が起こる理由は、脳の構造が変わるためです。

先程のK.Nelsonの記憶の発達段階で言うと、わたしたちの記憶が長期記憶として残るのは、記憶を言語に置き換えることで初めて海馬が関与するためだと考えられます。

つまり、子供は海馬の発達と言語獲得によって、長期記憶ができる構造を手に入れるため、それまでの記憶を必要としなくなってしまい、「検索の失敗」が起きるというのです。

幼児期健忘が起こる動物は人間だけではない

一方、幼児期健忘が起こる動物は人間だけではないため、言語獲得は幼児期健忘が起こる必要条件ではないとして、カナダのトロント小児病院の神経科学者フランクランド(Paul Frankland)とジョセリン(Sheena Josselyn)は、違う説を唱えています。

幼児期の急速なニューロン成長が古い記憶を保存している脳の回路を乱し,記憶にアクセスできなくしていると考えている。幼児は前頭前野(記憶を形成する別の脳領域)が未熟でもあり,この2つの要因が組み合わさって幼児期健忘が生じている可能性がある。

乳幼児期を思い出せない理由〜日経サイエンス2014年10月号より | 日経サイエンス

Infantile amnesia: A neurogenic hypothesis

ただ、どちらにしても脳の構造が劇的に変わることによって幼児期健忘が起きるという点では同じですね。

3歳以前のことを覚えている人がいる理由

幼児期健忘のことを知ると、きっと反論をしたくなる人もいると思います。なぜなら、「自分は3歳より前のことを覚えている。」という人が少なくないからです。

ロンドン大学、ブラッドフォード大学、ノッティンガム・トレント大学の合同研究チームが心理学系学術ジャーナル「Psychological Science」で発表した研究によると、6641人を対象にした最初の記憶とその時の年齢を調査したところ、2歳よりも前の記憶を持つ人は2487人もいたそうです。

研究チームはこれら最初の記憶が2歳以下の人々の思い出の内容を詳しく分析した。そしてこれらの人々が話す最初の記憶は、出来事ではなくビジュアル的なイメージや感情である心的表象(mental representation)に基づくものであることを突き止めた。

人生最初の記憶の4割は「偽の思い出」だった!?|@DIME アットダイム

Fictional First Memories - Shazia Akhtar, Lucy V. Justice, Catriona M. Morrison, Martin A. Conway, 2018

記憶は、言葉で表現できる記憶を宣言記憶、言葉で表現できない記憶を非宣言記憶と言い、さまざまな研究によって宣言記憶は海馬でしか記憶できないことがわかっています。

そのため、海馬を損傷した人は宣言記憶が破壊されることで、記憶を語ることができなくなりますが、これまで身につけた人間的な振る舞いを忘れることはありません。そして、海馬は2歳ごろにようやく発達するものです。

これらのことから研究チームは、2487人が語った2歳よりも前の記憶は、後から知った事実や聞かされた思い出話、似通った別の情報が組み合わさって、架空の思い出を作り出したものだと結論づけています。

2歳前の記憶はどんなにリアルなものであっても偽の記憶。刷り込まれて作られたものであるとする研究結果(英研究) : カラパイア

子供の人見知りは記憶できないからかも

わたしたちが持っている記憶とは、その場面と雰囲気、背景、感情などを複合して覚えているものです。記憶が薄れていく場合は、これらの複合した記憶の一部分ではなく、全部が少しずつ薄れていくイメージです。

ところが、3歳前後の記憶はその場面が切り取られた写真のように鮮明に覚えている割には、雰囲気、背景、感情などは覚えていません。おそらくこれが、幼児期健忘前後の記憶の違いなのでしょう。

最近、うちの妹の2歳の娘に会う機会が増えました。2-3週間毎に会っているためか、わたしや息子、娘にはとても懐いています。とくに、娘のことが大好きなようです。

一方、夫が会うのは3-4か月に1回程度。そのため、会う度に怖がり、バイバイ間際にようやく慣れるというのを繰り返しています。「なかなか人見知りがなくならないねぇ。」なんて話していましたが、単純に記憶に残っていないだけのことなのかもしれません(^_^;)

赤ちゃんの一般的な人見知り時期
いつから|生後5-6か月ごろから始まる
いつまで|2歳までに薄れていく

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