胎児を守る羊水の様々な役割とは?色や匂い、成分、量、温度など

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羊水は年を取ると腐る?

年齢と羊水の関係と聞いて、どのようなイメージがあるでしょうか。

2008年、倖田來未さんの「35歳をまわる(過ぎる)と羊水が腐る」という発言が話題になりましたが、そこで初めて「羊水(ようすい)」の存在を知った男性は少なくないでしょう。

日本周産期・新生児医学会は、「ライフプランを考えてみましょう─妊娠・出産には適した年齢があります─」という資料で、「女性の加齢と共に卵子の質・量が低下し、30歳から妊娠可能性が低下し始め、35歳前後からは流産率の上昇などリスクが高まり、男性でも加齢で精子の状態が低下する」としています。

発言の真意はわかりませんが、羊水が腐る発言が妊娠・出産ができなくなるという意味だとすると、たしかに年齢によって妊孕性(妊娠する力)が低下することは事実です。ただし、劣化するのは卵子や妊娠機能で、羊水が腐ることはありません。

つまり、あの羊水が腐る発言は、高齢出産のリスクと捉えれば妥当ですが、そもそも羊水うんぬんの知識が間違っていて、さらに「腐る」という表現が良くなかったということになります。

では、羊水は本来どのような役割や特徴を持ったものなのでしょうか。

羊水とは

胎児は妊婦のお腹にある子宮の中で成長しますが、子宮の中は何もない空間ではありません。以下の図の通り、子宮壁(子宮の内壁)には胎盤が形成され、胎児から出た臍帯が胎盤につながっています。

また、胎児は薄い卵膜に覆われています。下図には描かれていませんが、卵膜は一番内側の「羊膜(ようまく)」、羊膜の外側にある「絨毛膜(じゅうもうまく)」、一番外側の「脱落膜(だつらくまく)」の三層で構成されています。

胎児付属物

出典|胎児付属物|家庭の医学|時事メディカル

そして、羊膜の内側は、「羊水(amniotic fluid)」で満たされています。胎児は、この羊水に満たされた空間のなかで、およそ10か月を過ごすことになります。

羊水の特徴

参考|羊水・羊膜|日産婦誌59巻10号|日本産科婦人科学会
参考|羊水異常の診断|日産婦誌53巻10号|日本産科婦人科学会
参考|看護学実践 -Science of Nursing- 母性看護学|日本放射線技師会出版会

1.羊水の成分

羊水は妊娠初期から存在します。と言っても、妊娠初期とそれ以降で羊水の成分は変わります。

まず、妊娠10週過ぎまでは母体血漿、及び胎児血漿が主な成分です(血漿とは血液に含まれる液体成分の一つ)。その後、胎児の腎臓が機能し始めると尿の排泄が行われるようになり、胎児尿や肺胞分泌液が羊水中に占める割合が増えます。

また、胎児は嚥下機能も早くから発達するため、羊水を飲んで尿を排泄するという循環が起こるため、徐々に羊水量も増えていきます。

このころの羊水はph7.6-7.7の弱アルカリ性で、成分のほとんどが水、残りは各種電解質、ブドウ糖、アミノ酸、タンパク質、脂質、尿素、尿酸、クレアチニン、ビリルビン、各種ホルモン、酵素などの多様な物質が含まれています。

2.羊水の平均量

前述した通り、羊水は妊娠初期から存在しますが、途中から胎児の尿で満たされていきます。

羊水量は妊娠10週で約30ml、妊娠20週で約350ml、妊娠32週までは増加し続け700-800mlと最大量に達します。その後、妊娠40週を過ぎると羊水は減少し、妊娠42週では400mlほどになります。

胎児は、妊娠後期には1日に200-500mlほどの羊水を嚥下し、それに相当する尿を排出することで羊水量を一定に保っています。そのため、羊水量が多すぎても少なすぎても、胎児の嚥下・排出機構に問題があると考えられます。

ちなみに、羊水量が800mlを超えることを「羊水過多症」、羊水量が100mlを下回ることを「羊水過少症」といいます。

3.羊水の温度

羊水の温度は、一般的に37-38度に保たれています。

4.羊水の色や匂い

妊娠初期の羊水は、母体血漿、及び胎児血漿が主な成分のため無色透明で匂いがない液体ですが、妊娠中期に胎脂が分泌されるようになると乳白色に変化し生臭さが混じった匂いに変化します。

妊娠後期の羊水の成分は胎児尿がメインのため、羊水の色は透明淡黄色になり、匂いも尿独特の匂いが混じって感じられます。ただし、羊水の色や匂いには個人差があるため、明確に定義はできません。

羊水の機能・役割

参考|羊水の生理に関する研究|産婦人科の進歩第29巻6号 pp.545~549|近畿産科婦人科学会
参考|参考|羊水異常の診断|日産婦誌53巻10号|日本産科婦人科学会

1.胎児が運動するための空間を与える

子宮内に羊水が満ちていることで、ある程度の空間が確保されます。そのため、胎児はその空間内で動くことが可能になり、身体機能の発達に寄与します。

2.胎児と羊膜などの癒着を防ぐ

子宮内に羊水が満ちていることで、胎児の成長の過程で子宮内部の機能と胎児の体が癒着することを防いでいます。

3.外部の衝撃の緩衝になる

羊水は、外部からの衝撃を吸収して、直接胎児に影響がない緩衝材の役割を果たしています。

4.胎児の衝撃の緩衝になる

羊水は、外部の衝撃の緩衝になるだけでなく、胎児の運動が母体に与える衝撃を和らげる働きをします。

5.胎児の体温を一定に保つ

胎児は体温調節機能が未熟なため、体温を一定に保つことはできません。羊水は、常に37-38度の温度のため、胎児の体温も一定に保っています。

6.軟産道開大を助ける

羊水は胎胞を形成して、分娩時に子宮口を広げる助けをします。

7.胎児の下降を助ける

破水をすると、羊水が膣壁に流れ出ることで潤滑にし、胎児が下降しやすくなります。

8.陣痛の子宮収縮圧を一定にする

子宮収縮が起こったときに、羊水があることで圧力が均等になり、胎児や子宮の一部に無理な力がかからないようにします。

9.産道をきれいにする

分娩の際に羊水が流れることで産道の汚染を洗い流し、細菌による感染症などの病気を防ぎます。

10.胎児の呼吸機能を高める

胎児は妊娠10週前後から羊水を飲みますが、飲んだ羊水は肺に送られることで肺呼吸をする機能を高めています。

11.消化器や腎機能を高める

胎児は羊水を飲み、それを尿として排出する過程で、消化吸収するための消化器機能と排泄するための腎機能を高めています。

羊水と35歳が結びついた原因

このように、羊水は大切な役割を持っているのですが、直接妊娠機能とは関係ありません。冒頭のお話の続きですが、なぜ羊水と35歳という年齢が結びついて誤認されてしまったのでしょう。

まず、35歳という年齢は高齢出産の基準となる年齢です。日本産科婦人科学会では、WHOなど諸外国にならって、「高年初産婦(こうねんしょさんぷ)は30歳以上」という定義を、1993年に35歳以上に変更しています。

もちろん、34歳と35歳で妊娠しやすさ・妊娠リスクが劇的に変わるわけではありませんが、頭に残る数字としてインパクトはありますね。

そして、羊水の方は羊水検査と関係しているのではないかと思います。羊水検査は、基本的に35歳以上で希望者のみが受けられる検査です。

羊水検査は羊水の良し悪しではなく、羊水内にある胎児の剥離細胞を調べることで、染色体異常など胎児の異常の可能性を見極めるものです。

これを羊水の良し悪しと捉えてしまうと、冒頭のように「35歳をまわる(過ぎる)と羊水が腐る」がどこか信憑性があるように、誤解を持って伝わってしまいます。

羊水は、35歳を過ぎても腐りません。妊娠のリスクに羊水は直接は関係しませんが、高齢になることで妊娠・出産のリスクが増すことは事実だと認識しておきましょう。