妊娠高血圧症候群とは?原因や症状は?予防や治療は可能?

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妊娠中の高血圧は妊娠中毒症ではない

わたしの親の世代では、妊娠中に気をつけるべき症状の1つに「妊娠中毒症」という病気がありました。

妊娠中毒症とは、妊娠中期(妊娠5-7か月)ごろから、妊婦に高血圧、蛋白尿、むくみ(短期で500g以上の体重増加)のいずれかの症状が現れる病気のことで、重大な病気や妊娠の阻害につながる可能性があるとして長らく注意されてきました。

ところが、妊娠中毒症は2005年に名称が「妊娠高血圧症候群」に変わりました。そのため、50代以上の女性は、妊娠高血圧症候群の認識が低いのではないかと思います。

なぜ、妊娠中毒症から妊娠高血圧症候群に呼び方が変わったかというと、病気の症状などの認識が変わったためです。

妊娠中毒症から妊娠高血圧症候群への変化は大切なことなので、現在妊娠中の人やこれから妊娠したい人は、自身の健康のため、妊娠中の胎児と出産後の赤ちゃんのために、詳しく知っておく必要があるでしょう。

今回は、妊娠高血圧症候群の原因や症状、また、予防法や治療法などについてお話したいと思います。

妊娠高血圧症候群とは

妊娠高血圧症候群とは、妊娠20週から分娩後12週までの間で妊婦に高血圧が見られること、または蛋白尿を伴った高血圧が見られることのどちらかを言い、さらにこれらの症状が偶発的な合併症ではない状態を言います。

妊娠中毒症の判断基準が高血圧、蛋白尿、むくみ症状であることに対して、妊娠高血圧症候群は高血圧かどうかが最も重要な判断基準と定義付けられています。

つまり、高血圧、蛋白尿、むくみの関係は以下の通りです。

1.高血圧が蛋白尿やむくみを引き起こす可能性がある
2.蛋白尿やむくみ症状でも高血圧とは限らない

もちろん、蛋白尿やむくみ症状が軽視されているわけではなく、蛋白尿、むくみ症状が見られる場合も妊娠高血圧症候群の兆候を疑う必要はあります。

兆候1.高血圧

継続的に上の血圧(収縮期)が140mmHg以上、または下の血圧(拡張期)が90mmHgを超えた状態を高血圧といいます。

血圧が高いということは、圧力をかけて血液を流しているということです。強い力で血が流れると血管が傷みやすく、胎盤の血管が損傷すると胎児に十分な栄養が送れないなど様々な障害が現れます。

妊娠高血圧症候群における高血圧は、日本産科婦人科学会によって以下のように分類されています。

妊娠高血圧症候群の高血圧による分類
軽症の場合|上の血圧が140mmHg-160mmHg未満、下が90mmHg-110mmHg未満
重症の場合|上の血圧が160mmHg以上、下が110mmHg以上

兆候2.蛋白尿

尿は腎臓が血液をろ過して、身体に不要な成分を排泄したものです。そのため、通常はタンパク質が尿に混じることはありません。

蛋白尿が出るのは、腎臓の働きが弱っているためだと考えられます。腎臓の働きが弱くなると塩分と水分の排泄が滞り、血液量が増加して血圧が上がります。血圧が上がると、さらに腎機能が低下します。

妊娠高血圧症候群における蛋白尿は、日本産科婦人科学会によって以下のように分類されています。

妊娠高血圧症候群の蛋白尿による分類
軽症の場合|尿300mg/日以上で蛋白尿が2g/日未満
重症の場合|尿300mg/日以上で蛋白尿が2g/日以上

詳細は、日本妊娠高血圧学会の「妊娠高血圧症候群(PIH)管理ガイドライン」を参照してください。

兆候3.むくみ(浮腫)

むくみは、血管から細胞に渡された細胞間液が、静脈やリンパ管に戻らずに溜まって肌が膨らんだ状態を言います。

むくみはの高血圧になりやすい妊娠後に起こるのですが、一晩寝てもむくみが取れない場合は、妊娠高血圧症候群を疑って血圧検査などを行う必要があります。

妊婦のひどいむくみ症状の原因は?解消方法と効果的な食べ物

ただし、むくみは妊娠前でも女性に起こりやすい症状であり、妊娠初期症状としてもよく起こるため、日本産科婦人科学会では妊娠高血圧症候群の判定基準として採用していません。

参考|妊娠高血圧症候群(PIH)管理ガイドライン – 日本妊娠高血圧学会
参考|日本妊娠高血圧学会
参考|妊娠中毒症(1)(妊娠高血圧症候群) – gooベビー

妊娠高血圧症候群の原因

妊婦に妊娠高血圧症候群が起きる原因は様々あり、明確には判別できません。

ただ、以下の条件や症状が見られる場合に、胎盤に流れる血管が破損する、血液が異常に固まる、血管が異常に収縮するなどが起こり、妊娠高血圧症候群を発症する可能性があります。

・40歳以上の高齢妊娠の場合
・15歳以下の若年妊娠の場合
・初産の場合
・多胎妊娠の場合
・肥満の場合(BMI値目安25以上)
・糖尿病、腎疾患、甲状腺機能障害などの場合
・妊娠糖尿病の場合
・妊娠高血圧症候群の遺伝の場合
など

上記妊娠糖尿病は、妊娠高血圧症候群の主要な原因の1つです。妊娠糖尿病の詳細は以下を参考にしてください。

妊娠糖尿病とは?症状や原因・診断基準は?妊婦や胎児への影響

妊娠高血圧症候群による妊婦の症状

妊娠高血圧症候群には様々な症状がありますが、重症化すると妊婦に以下の深刻な影響を及ぼす場合があります。

妊婦の症状1.子癇(しかん)

子癇とは、高血圧が原因で妊娠20週以降に起きる痙攣や意識消失のことを言います。

高血圧による子癇は妊娠中だけではなく、分娩中や分娩後に起こる可能性もあり、子癇が治まらない場合は脳ヘルニアに進行し、妊婦の生命にも危険が及ぶ可能性があります。

妊婦の症状2.HELLP症候群

HELLP症候群(ヘルプ症候群)とは、血液中の赤血球の溶血、肝機能の低下、血小板の減少などの症状がある怖い病気のことを言います。

妊婦がヘルプ症候群を発症すると、上腹部痛、心窩部痛(しんかぶつう)、嘔吐などがあり、播種性血管内凝固症候群(DIC)、常位胎盤早期剥離、腎不全、肺水腫、胸水・心嚢水・肝内血腫、肝破裂などを併発する恐れがあります。

妊娠高血圧症候群の妊婦は、10-20%の確率でヘルプ症候群が合併するデータがあり(全妊娠の0.2-0.9%)、その際の妊産婦死亡率は1.47%ですが、胎児の周産期死亡率も10.09%と高く、分娩前であれば緊急帝王切開が必要になります。

参考|母体安全への提言 2014|日本産婦人科医会
参考|HELLP 症候群に脳出血をきたした一症例|聖マリアンナ医科大学医学界

妊婦の症状3.常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)

常位胎盤早期剥離とは、妊娠30週以降で分娩完了の前に胎盤が剥がれて子宮内出血が起こる病気のことで、出血量が多い場合は妊産婦死亡につながる恐れもあります。

常位胎盤早期剥離が起こる確率は全出産の0.5%-1.3%と決して高い確率ではありませんが、重症化する割合が高く、母体の死亡率は常位胎盤早期剥離全体の5%前後、胎児死亡率は30-50%にもなります。

死産リスクが高い常位胎盤早期剥離の症状は?原因と予防・治療法

妊娠高血圧症候群による胎児の症状

妊娠高血圧症候群は、妊婦に様々な影響を与えることで、胎児にも以下の影響をおよぼす場合があります。

胎児の症状1.胎児発育不全

胎盤の血管形成が上手く行えないため、臍帯を通じた酸素や栄養が胎児に流れにくくなり、機能形成の遅れや発育不全が起こる可能性があります。

また、胎児の体重が十分に増えないため、低出生体重児や未熟児が産まれる可能性が高まります。

胎児の症状2.子宮内胎児死亡

前述した通り、母体がヘルプ症候群を起こしたり、常位胎盤早期剥離を起こしてしまった場合、胎児に栄養や酸素が行き渡らずに子宮内で胎児が死亡してしまう可能性があります。

妊娠高血圧症候群の確率

妊娠高血圧症候群の軽症(140/90mmHg以上)の場合、妊婦全体の7-12%ほどに兆候が見られ、その状態から妊娠高血圧腎症、妊娠高血圧、子癇、ヘルプ症候群を発症してしまいます。

日本産婦人科学会によると、妊娠高血圧症候群からそれぞれの症状の発症確率は以下の通りです。

・妊娠高血圧腎症|3-5%
・妊娠高血圧|5-6%
・子癇|0.05%
・ヘルプ症候群|0.2-0.6%※

※聖マリアンナ医科大学医学会では0.2-0.9%

参考|日産婦誌58巻5号研修コーナー|妊娠高血圧症候群|日本産婦人科学会

妊娠高血圧症候群の予防

妊娠高血圧症候群の主な原因は、若年・高齢妊娠、初産、多胎妊娠、糖尿病などの持病持ち、妊娠高血圧症候群の遺伝などがあります。

このように生理的な原因、不明確な原因が多いため、妊娠高血圧症候群を完全に予防することは難しいでしょう。

ただ、妊娠高血圧症候群の完全な予防は難しくても、適度な運動やバランスが取れた食生活などの生活習慣に注意することで妊娠高血圧症候群の発症確率を抑えたり、重症化を防ぐことは可能です。

妊婦の運動はいつから?妊娠中におすすめ・してはいけない運動

また、妊娠が発覚した際にBMI25以上の肥満体型であれば、高血圧の原因になる塩分を控え、時間をかけて体脂肪を減らす必要があります。

妊娠時に必要な栄養バランスは、現在の体型や生活習慣・生活環境など妊婦によって異なります。まずは医師や助産師に相談し、適切な栄養士などの紹介を受けて栄養管理ができる体制を作りましょう。

妊娠中の体重増加に関しては、以下を参考にしてください。

妊婦の理想体重は何キロ?増えすぎや増えないときの影響は?

妊娠高血圧症候群の治療

妊娠高血圧症候群の治療は、妊娠期間及び分娩後12週までは、高血圧を抑える対策を継続しなければいけません。

参考|日産婦誌58巻5号研修コーナー|妊娠高血圧症候群|日本産婦人科学会

治療法1.生活指導

妊娠高血圧症候群の兆候が見られると、医師から安静にすることを勧められます。妊婦が安静にすると、交感神経の緊張が緩和されて大動脈の圧迫が緩むことで、子宮への血流量が増加し血圧が低下していきます。

治療法2.食事療法

生活指導と同時に栄養指導による食事療法も行ないます。食事療法は、エネルギー摂取・塩分摂取・水分摂取・タンパク質摂取のコントロールと動物性脂肪と糖質の制限が主になります。

妊娠高血圧症候群の栄養指導(食事指導)
1.エネルギー摂取(総カロリー)
非妊時BMI24以下の妊婦:30kcal× 理想体重(kg)+ 200kcal/日
非妊時BMI24以上の妊婦:30kcal× 理想体重(kg)/日

2.塩分摂取
7-8g/日に制限する

3.水分摂取
1日尿量500ml以下や肺水腫では前日尿量に500mlを加える程度に制限
それ以外は制限しないが渇きを感じない程度の摂取が望ましい

4.タンパク質摂取
理想体重×1.0g/日に制限する

5.動物性脂肪と糖質の制限
高ビタミン食にすることが望ましい

治療法3.薬物療法

妊娠高血圧症候群が重症化した場合は、医師の判断によって血圧を下げる降圧剤など薬物療法を継続的に行います。

妊娠高血圧症候群の薬物療法
1.降圧剤
下の血圧が100mmHg以上になると、降圧剤の投与を考慮します。降圧の目標は上の血圧が140-150mmHg、下が血圧90-100mmHgとし、急激な血圧の変動による胎児仮死を避けなければいけません。

2.硫酸マグネシウム
硫酸マグネシウムは、子癎の治療や予防に用います。副作用は、顔面紅潮、倦怠感、目のかすみ、悪心、嘔吐等があります。

3.アンチトロンビン
妊娠高血圧症候群は、血液凝固が高い度合に進んでいるため、血栓形成の抑制と血小板凝集の抑制を目的としたに アンチトロンビンを投与する場合があります。

また、妊娠高血圧症候群が重症化した際、母子の状態によっては、妊娠22週以降の早い段階であも、帝王切開による出産を済ませてから母子の治療を行うケースもあります。

食事と生活習慣などの健康管理が大切

流産を予防することが難しいように、妊娠高血圧症候群を予防することも難しいとされています。

ただし、少しでも流産の可能性を減らすために、タバコやお酒を控えたり、栄養バランスが良い食事をしたり、ストレスを溜めない生活をしたりなど、最低限守ることはあります。

同じように、妊娠高血圧症候群も塩分やカロリーを控え、運動や食事療法によって少しずつ体重や血圧を減らすなど、最低限行わなければいけないことがあります。

妊娠高血圧症候群は、胎児の生命リスクだけではなく、妊婦の生命リスクにもかかわる重大な症状であり、症状が重くなるとなかなか回復しません。

さらに、妊娠高血圧症候群は、妊娠中だけではなく出産後にも影響を及ぼす怖い病気のため、やはり普段の生活習慣を守った予防を心がけるしかありません。

そのため、妊婦は妊娠中はもちろんのこと、出産後も食事や生活習慣などの健康管理には十分注意するようにしましょう。

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